ターゲットやペルソナを設定する意味
自社またはサービスのプロモーションを効果的におこなう上で、「誰に伝えるか」を設定することはとても大切です。
コミュニケーションの対象(ターゲットやペルソナ)を具体的に設定し、対象者が置かれている立場や、考えていることを予測することで、より効果的なメッセージを伝えることができます。
ターゲットとペルソナの違い
マーケティングの世界では「ターゲティング」というように明確にターゲットを設定する手法が用いられますが、このターゲットとは想定される顧客層(セグメント)の中での、特定のセグメントを指します。
ターゲットの考え方
例えば、20代後半〜50代前半の女性が顧客層の分布だとします。そのうちの、30代後半〜40代前半に焦点を当てよう、などと抜き出しをして「話し相手」を決めるのがターゲット設定です。
年齢層によって関心のある話題が違うため、話し相手によって話題を選ぶ事をイメージするとわかりやすいと思います。
ターゲット設定を行うことで、適切なメッセージを伝えることができるだけでなく、ユーザーの特性に基づいたメディア(接点、タッチポイント)の選定も可能になります。
ターゲットの前提はセグメント
しかし、現代では消費者のニーズが多様化しており、先述のように年齢層で分けるだけでは不十分です。ライフスタイル全般の行動傾向や特定のニーズに基づいてメディアやメッセージを最適化する必要が生じています。
例えばシャツを購入する場合、価格や販売形態、デザインや素材のコンセプトなど、様々な要素が選択基準として存在します。これらの要素は人によって異なり、個々の顧客は自身のこだわりや優先事項に基づいて選択します。これら複合的な要素を分析し、共通の傾向を持つ人々をグループ化することで、購買行動やメッセージの受容性などについて具体的なイメージを描くことを可能にします。これをセグメント化と言います。
セグメント化によって、シャツの購買行動において、特定のセグメントが異なる選択基準を持っていることが明らかになります。たとえば、価格に重きを置くセグメントや、デザインや素材にこだわりを持つセグメントなどが存在します。
このようにして、実際の顧客群の中から、関心事の違いに応じてグループ分けを行うことがセグメントの考え方です。インタビューやNPS調査を組み合わせたアンケート、行動データの分析などを通じて、セグメントが行われます。そしてターゲットとは、その中から、特に重点を置く話し相手(顧客)セグメントの事を指します。
セグメントを代表する人物像、ペルソナ
このようにしてターゲットに設定したセグメントを代表する人物像がペルソナです。
ペルソナは、年齢や性別、年収など表面的な属性以外の、言葉では定義しづらい趣向や信条のようなものまで明確化します。セグメントに特定の人格を与えたもの、とも言えますが、実在の人物である必要はない、というのがポイントです。架空ではあっても、最もセグメントに実在する人物らしいパーソナリティが描き出された人物像であればよいです。
趣味・趣向や価値観といったパーソナルな要素が入ることで、より生き生きとして具体的なユーザー像が明らかになり、「普段どんな行動をしているか」「どんな判断基準を持っているか、それは何故か」などを客観的に捉えやすくなります。
ペルソナの分析によって、「ライフスタイルや志向性から生じる行動傾向・ニーズ」によって顧客が何を求めているか、何と比較しているかなどを見いだす事が可能になります。
ターゲットは注力すべき顧客群、ペルソナはターゲットを代表する人物像
要約すると、ペルソナはターゲットとなるセグメントを代表する人物像(架空の場合もあります)であり、セグメントは実際の顧客群から特定の傾向で分割されたグループで、最も注力すべきセグメントがターゲットとなります。両者の違いを理解しておくことで、戦略を考える際に混乱を避けることができますので、最初に明確にしておきましょう。
最適なターゲットとペルソナのためのセグメンテーション
近年、複雑化する消費者ニーズを捉えるという観点でペルソナの重要性がもてはやされてきましたが、その運用のポイントを外すと、あまり意味がなくなってしまいます。ここからは、ターゲットの前提となるセグメント、そしてペルソナの設定について注意点を確認してみましょう。
セグメントの妥当性
まずセグメントの妥当性が重要です。セグメントは、データに基づいて明確な特徴やパターンを持つグループでないと、あまり意味を成しません。
セグメントについて正確な洞察を得るには、統計的な調査など信頼性の高いデータが必要です。これらは、主観的な意見や仮説に頼ることなく、客観的な洞察を得るための貴重な情報源となります。顧客の傾向や行動パターンを客観的に把握することが、セグメントの妥当性となります。
統計的なデータや考え方を用いて、購買行動やニーズに関連する重要な変数を特定したセグメンテーション(セグメント化)を行いましょう。これにより、特定の変数や要素がペルソナの形成にどの程度影響を与えるのかを把握し、重要な要素を組み合わせてペルソナを構築することが可能となります。
ターゲット選定の方法については、戦略要件であるため次の章で触れることにします。
ペルソナには具体性と信憑性が求められる
次にペルソナですが、具体性と信憑性の向上が求められます。統計的に有意な調査データは、ペルソナの属性や特徴を客観的に具体化するために役立ちます。一方で、主観的な意見や仮説だけで構成されたペルソナは、マーケティング戦略において効果的ではありません。
ペルソナは、架空のキャラクターであるため、現実的で信憑性のある特徴を持つことが重要です。統計的なデータを基に構築されたペルソナは、顧客の実際の行動パターンやニーズに基づいており、よりリアルな顧客像を表現することができます。これにより、具体的なマーケティング施策を立案し、顧客へのアプローチを効果的に行うことができます。
売り手の都合で描かれたペルソナは無意味
一方、主観的な意見や仮説だけで構成されたペルソナは、実際の顧客像と乖離している場合があります。極論ですが、いくらでもお金があり、いくらでも時間があり、購買意欲が旺盛で広告を見たらすぐ買いたくなる人…のような設定になっているケースも散見されます。
これでは、顧客のニーズや行動に合わせた施策を立案することが困難であり、結果的に効果の低いマーケティング活動となってしまいます。
調査データが十分でない場合でも、一部の客観的な事実や市場の一般的なトレンドをもとにペルソナを設定することは可能です。これにより、事前の仮説や予想を立て、実際の顧客との接触やフィードバックを通じて仮説を検証し修正することができます。その過程で、より具体的で信憑性のあるペルソナが形成されます。
ターゲットの設定は競争戦略を考慮する
ターゲットの設定は戦略的な要素であり、競合に対する優位性や自社のポジショニング、顧客に提供できる価値やベネフィットの質などを考慮して行われるべきです。自社が選ばれる理由や他社との差別化ポイントを明確に把握し、その要件に応じたターゲットを選択することが重要です。
ターゲットを設定する
セグメンテーションで特定したセグメントの中から、最も魅力的なターゲット市場を選択します。魅力的なターゲット市場とは、需要の大きさや成長性、競争状況、企業のリソースとの適合度などを考慮して選ばれます。ターゲット市場を明確にすることで、リソースを集中的に投入し、より効果的なマーケティング施策を展開することが可能となります。
ターゲット設定は、自社のビジネス目標や戦略に合致し、市場において競争優位を獲得するための重要なステップです。ターゲットセグメントを選ぶ際には、自社の強みや独自性を活かせるセグメントや、顧客に最も価値を提供できるセグメントを重視する必要があります。
STP分析とポジショニング
ここまでご説明してきたセグメント、ターゲットというアプローチは、STP分析に沿っています。STP分析は、マーケティング戦略の基礎となる重要なフレームワークの一つです。
このSTPとは、「Segmentation(セグメンテーション)」、「Targeting(ターゲティング)」、「Positioning(ポジショニング)」の頭文字を表しています。STP分析は、顧客を異なるセグメントに分け、それぞれのセグメントに合わせたマーケティング戦略を策定するための手法です。
ターゲットを選択したら、ポジショニングを考えます。ポジショニングでは、選択したターゲット市場において、自社や製品が他社とどのように異なる存在として認識されるかを決定します。ポジショニングは、顧客に対して独自の価値提案を伝えるための戦略です。競合他社との差別化やブランドイメージの構築などを通じて、顧客の心に響く独自の位置づけを確立することが重要です。
また、ポジショニングによって、自社が選ばれる理由を明確にすることで、マーケティング施策やプロダクト開発の方向性を効果的に定めることができます。
STP分析はこちらにも解説がありますので、ご参照ください。
ペルソナの設定方法
ターゲットとポジションを設定したら、次はペルソナ設定のプロセスについて確認します。
考え方は人それぞれ異なるかもしれませんが、ペルソナ設定において重要なポイントは共通しているのでぜひ参考にしてください。
既存顧客の分析
まずはターゲットにあたる顧客の分析からスタートします。
既存顧客の購買履歴などの行動データ、アンケートのデータなどがあれば活用します。情報量が少ない場合は顧客へ直接インタビューなどを行うなど、積極的に情報を集めます。他にも分析材料としてネット上の口コミなどを参考にすることもあります。
先に説明したとおりペルソナは架空のキャラクターであるため、現実的で信憑性のある特徴を持つことが重要です。統計的なデータとまで行かなくても、統計的な考え方をもとに信憑性のある人物像を構成します。ターゲットとなるセグメントを代表する人物像であることが重要です。
分析結果をもとに情報をブラッシュアップ
分析結果から得られた情報を細かい項目に分けてシートなどにまとめます。
項目としては年齢、性別、収入レベル、趣味や関心事など、いわゆるデモグラフィックなデータに加え、インターネットの利用方法、よく利用する交通手段や場所を考慮しておくと良いでしょう。
SNS経由で日常的に商品を購入する層と実店舗での購入がメインの層とではサイトの導線や打ち出し方も全く異なります。
まずは思考や言動をリアルに思い浮かべられるようなペルソナを作成し、そのペルソナに対して明確なゴールを設定しましょう。
最終確認
ペルソナが完成したら複数の担当者で最終確認を行います。
優良顧客の印象を営業担当にヒアリングするなど、情報の粒度をさらに細かくしていきます。
ここまでしてやっとペルソナができ上がることを理解しておきましょう。
ペルソナの設定に統計的な考え方を取り入れることで、ペルソナの構築に客観性と信頼性をもたらすことができます。ただし、統計的なアプローチだけでなく、マーケティングの専門知識や洞察も組み合わせることが重要です。統計的なデータを元にした分析と経験に基づく洞察を総合的に考慮し、より有効なペルソナを構築することが理想的です。
ターゲットとペルソナの効果的な運用
ターゲットとペルソナの効果的な運用において非常に重要なのは、データに基づいた意思決定を行うことです。これをデータドリブンなアプローチと呼びます。このアプローチにより客観的かつ効果的な戦略を実行することができます。データドリブンなアプローチの利点は次のとおりです。
データドリブンなアプローチ
まず、データ分析を通じて、顧客の行動パターンや傾向、ニーズなどの洞察を獲得することができます。これにより、ターゲットとなるセグメントやペルソナの特徴をより具体的に把握し、効果的な施策を立案することができます。
また、データに基づいたターゲット設定やペルソナの運用により、個々の顧客に合わせたパーソナライズされたマーケティングを展開することができます。顧客の好みや関心に合わせたメッセージやコンテンツを提供することで、顧客の関与度や応答率を向上させることができます。
顧客の反応や行動データを分析し、施策の成果やROIを評価することで、より効果的なターゲティングやペルソナの改善につなげることができます。
データドリブンなアプローチには、顧客データの収集・分析やテスト・評価などのプロセスが含まれます。これにより、主観的な意見や仮説に基づくだけではなく、客観的なデータに基づいた意思決定が可能になります。
ペルソナとは、仮面である
ペルソナ(Persona)は、ラテン語で「仮面」を意味します。この言葉は、心理学者カール・グスタフ・ユングによって導入され、その後、マーケティングやユーザーエクスペリエンスデザインなどの領域で広く使用されるようになりました。
ユングのペルソナ
ユングによれば、人間は社会的な役割や期待に応じて、自己を制約し、表面的な仮面をかぶることがあります。この仮面のことをユングは「ペルソナ」と呼びました。ペルソナは、社会的な役割や外部の期待に適合するために、個人が外部に見せる自己の側面です。人々は自己を表現する際に、真の自己ではなく、外部の要求や期待に合わせたペルソナを演じることがある、ユングは言います。これは、社会的な調和や社会的な成功を追求するための一種の防御機制として機能するとされています。
仮面の裏にあるもの
ユング心理学のペルソナと使われ方は異なりますが、マーケティングやUXのペルソナも仮面という点で共通です。ペルソナはあくまで仮想のキャラクターであり、実際の顧客個人の全体像を完全に反映するものではありません。そのため、ペルソナを使用する際には、単に外見や属性から創造する表面的な振る舞いだけでなく、人間の本質的な部分や感情、思考、価値観などの内面を考慮することが重要です。
人間の内面は複雑であり、変化もします。感情の揺れやライフスタイルの変化など、個人の状況や環境は影響を与えます。ペルソナは、顧客を理解し、彼らのニーズや要求、行動や感情を見つけるためのツールです。ペルソナを使用する際には、洞察と共感を重視しましょう。顧客の視点に立ち、彼らの経験や要望を真摯に受け止めることが重要です。